田中淳夫さんの新著「獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち」をご紹介します。獣害の現状を正しく知るための良書なので、興味があればぜひ一読をおすすめします。
日本の山林では、昔から林業だけでなく、炭焼きや狩猟、山菜採りを行い、豊かな自然の恵みを受けながら生活してきました。シカやイノシシといった野生動物もその一部です。
しかし、今の山林では減少していると言われたシカやイノシシ、クマがどんどん増え、人里に出没して畑の作物を食い荒らし、食害だけでも1000億を超える被害が出ているそうです。
林業でも植林した苗をシカが食べてしまったり、スギやヒノキの樹皮を剥いでしまうので、非常に困っているという話をよく聞きます。
こうした野生動物による被害が増える中、その現状を知るための良書「獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち」が刊行されたので、さっそく読んでみました。
ちなみに、上の画像はうちのニャ生動物です・・・
書籍「獣害列島」の内容
日本唯一の森林ジャーナリスト、田中淳夫さんの新著「獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち」は、2020年10月にイースト・プレスから発行されました。
目次と内容
第一章 日本列島は野生動物の楽園?
第二章 破壊される自然と人間社会
第三章 野生動物が増えた「真っ当な」理由
第四章 食べて減らす? 迷走する獣害対策
第五章 獣害列島の行く末
内容紹介を見ると、「食害、人身被害、生態系の破壊、そして感染症・・・「動物愛護」が通用しない、日本の緊急事態に迫る!」とあり、なかなか刺激的な言葉が並んでいます。
- 列島全域が「奈良公園」状態
- コンビニ前にたむろするイノシシ
- レジ袋片手に冷蔵庫を荒らすサル
- 鳥獣被害額は年間1000億円以上?
- ネコは猛獣! 野生化ペットが殺す自然
- コロナ禍は獣害! 人獣共通感染症の恐怖
- 食べて減らす? 誤解だらけのジビエ振興
何と、ネコも野生化すると害獣なのか。ネコは元々ケモノだし、野生化したらカワイイじゃ済まないようですね。
野生動物が人間の住処を奪う
最近はクマ出没のニュースをよく見るようになりました。クマに限らず、日本の野生動物はどんどん増えているようで、人間の生活圏にも進出してきています。
今までは「人間は動物の住処を奪っている」と思われていましたが、現在の日本ではむしろ「動物が人間の住処を奪っている」そうです。
確かに山間部の集落に行くと、田んぼや畑が柵で囲まれているのをよく見かけます。事情を知らない外野から見たら、そこまでする必要あるのかなと思いますが、それだけ野生動物の被害が大きいってことなんでしょうね。
山の世界ではシカやイノシシを見かけることも多く、木こりが山に入るときはクマ避けの鈴を付けたりして、お互いに警戒しつつも人間と野生動物がうまく共存してきました。
でも、山に生きる人たちの論理は時に残酷で、都会の論理とは相容れない場合があります。お互い生物なのだから、生存競争になれば戦うことも必要になります。
人間の生存圏が野生動物に奪われつつある今の時代は、「野生動物は保護すべき」というような安易な動物愛護の精神は通用しないのかもしれません。
あと、田中さんのブログで見かけた以下の文章も、獣害の一因なのでしょう。
ジビエで獣害は解決できない
この本では、ジビエ(野生鳥獣の肉)についても言及しています。
農林水産省では、獣害対策としてジビエ利用を増やすことで、野生動物の捕獲を進めるとともに、山村を発展させるという思惑があるようです。
しかし、捕獲後の処理が難しいことや、肉として利用できる部位が少ないといった理由で、ジビエ利用は進んでいません。
田中さんによると、そもそも野生動物による農林業の被害防止と、ジビエを結びつけるのは間違っており、捕獲数との相関性も薄いそうです。
また、獣害対策はジビエ利用ではなく、野生動物が里に近づかないようにする予防措置や柵の設置などを優先し、大量に殺処分するための方策をとるべきとのこと。
「獣害列島」では、他にも獣害の実態や問題を取り上げているので、野生動物の現状やジビエに興味がある方は、ぜひ一読をオススメします。
田中さんは森林ジャーナリストとして活動し、多数の著書があります。また、Yahooで森林や林業に関する記事を公開してます。